Flaneur-フラヌール-

50代からのSecond Life

九死に一生

あの時、じっとしていたら
どうなっていたのだろう
そう思う出来事が私にはあります。

 

もうかれこれ25年くらい前のことですが
群馬と長野の両県を担当していた私は
その日、新規のお客様の事業計画の会議があり
長野の佐久というところで打ち合わせをしていました。
そして、夕方までには群馬の下仁田まで行って
集金をしなければなりませんでした。

 

佐久での打ち合わせは
新しい事業を検討するというものであったため
会議も紛糾し、予定していた時間を大幅に超過してしまい
午後の3時を過ぎていました。

まだ、高速道路もできていなかったので
碓氷峠の有料道路経由か
国道254号線で向かうか
どちらも約1時間くらいの道のりです。

 

その時私は
なんとか最短の時間で辿り着き
集金を終わらせたかったのです。
と言うのも、規律が厳しい会社だったので
集金が抜けてしまうと、ミーティングで相当責められてしまいます。

集金先のお客様は
何時でもいいとは言いながら
ふらっと外出してしまうような人でした。

 

その頃は携帯電話もなかったため
2時間おきに会社に定期連絡を入れるというルールがありました。
打ち合わせが終わるとすぐ
電話ボックスをみつけ、会社に連絡を入れて下仁田に向かうことにしました。


営業車に戻ると
後ろの席にるるぶが置いてあったのを見つけ
もしかしたら、どこかに近道があるかもとめくってみました。
るるぶにはドライブマップがあり
その地図を見たところ、ちょうど碓氷峠と254号線の間くらいに
細いけど、道があるのが見えました。
ドライブマップの地図だから
車で走れる道だろう
ここを行けば、早く到着できるかもしれないと思い
その道を選択しました。

 

春も近づいていたので
峠にも雪は残っていませんでした。

山道でしたが車を飛ばしました。
しばらくして峠の頂上らしい場所に差し掛かりました。
すると、なんと、道が5つに分かれていたのです。

それは地図にも描かれていませんでした。
どれか一つが下仁田に続く道であることは間違いないのですが
一体、どれなんだ!
五叉路で車を止め、しばらく考え込んでいると
小さな看板が立っていました。
そこに下仁田と書かれています。
右の道をさしているようです。
ちょっと看板が傾いているのが気にはなったのですが
ハンドルを切りました。

しかし、数10メートル走ると
その道は雪が積もっていました。
冬中、誰も通っていなかったのか
かなり柔らかな雪質です。
ズブズブ、あれ、あれっ、と思い、
車を止め、バックしようとした時
タイヤがスリップし、空回りを始めました。
あれ、あれっ、と、ゆっくりとアクセルをふかし
脱出を試みたのですが、徐々に深みにはまっていきました。

 

やばいなぁ


シートマットをタイヤにかませて
脱出しようともしましたが効きません。
何度やってもやっても車は動く気配がありません。

 

しばらく車の中でラジオを聴きながら
どうしようか考えていましたが名案は浮かぶはずもありませんでした。
なんか、これ、ヘリコプターとか飛んできて救助されたり
しばらく見つからなかったりして
全国ニュースとかなるやつじゃない?
そんな風に考えると、とても恐ろしくなってきました。

時計は午後4時を過ぎていました。

 

暗くなったらお終いだ。
そう思った私は、思い切って車を出て
歩いて五叉路まで戻ることにしました。
程なくして五叉路にたどり着き
周りを見渡してみました。
すると、遠くにちょっと変わった形の
公共の施設のようなものが見えました。

もしかしたら、人がいるかも知れない!


そこから電話できれば、JAFを呼ぶとか
何か手を打てるはずだ!


そう思い、歩きました。
10分ぐらいでそこに着いた時には
足が冷え切って感覚がありません。
正面のドアらしいところを開けようとしましたが
鍵がかかっていました。
あー、ダメだ。諦めかけましたが
建物の裏の方に回り込んでみることにしました。

裏手は一段下がったところに
作業用の車輌があり、その奥に扉が見えました。
近づいていって、扉を開けたところ
なんと扉が開いたのです。

そして、恐る恐る声を出しました。
「すみませーん、どなたかいらっしゃいますかー。」

 

すると、奇跡が起きました。
建物の奥から
作業服を着た男性が現れたのです。

男性は、その日、たまたま建物の点検で来ていて
まもなく作業を終えて帰るところだったそうです。
私は、ことの顛末を説明し助けを求めました。
男性は、裏手に止めてあった
ミニブルトーザーのような作業車のエンジンをかけ
私につかまり立ちをして乗るように指示しました。

 

そして、雪にはまった車のところまで来て
バンパーの下の方にロープをかけると
私に車に入ってハンドルを持つように指示しました。
ぐいぐいという引っ張られる感覚があった後
スポンッっと雪の中から抜けました。
そして、そのまま、五叉路のところまで車を引っ張っていってくれました。

五叉路のところで車から出て
その男性に深々と頭を下げ御礼を言いました。

 

男性が言いました。「これ、動かすとお金かかるんだよね〜」
私は、「お、おいくらぐらいですか」
男性「3,000円かな?」
私、「あーお支払いいたします。」

お金を渡した後、下仁田に行く道を教えてもらいました。


下仁田に着く頃はすっかりあたりは真っ暗
結局、お客様は出掛けていて集金はできず
がっかりしながら会社に電話を入れると
同僚の女の子が脳天気な声で
「全然、連絡入れないで、どーしたのー」
到底、電話では話しきれない内容だったので
「戻ったら話すよ」と言って電話を切りました。

雪の中で車が抜けられなくなった時
じっとしていたら
あの男性がさっさと帰っていたら
一体どーなっていたのか
今だに思い出すたび、ゾッとします。

 

焦りや恐怖は人の判断を狂わせます。
焦って、思いもよらない行動を取ってしまったり
恐ろしさで動くこともできなくなってしまったり
ストレスは脳に働きかけ、筋肉に働きかけます。

いくらネット社会になっても
一生懸命、足を使って営業している人
たくさんの人の命を預かり運転する人
締め切りに追われてもがいている人
そんな人たちが報われてほしいと思います。

 

五叉路ほど複雑な分かれ道はないけれど
道に迷った時は
看板だけを信じてはいけないこと
自然や環境や、自分の直感や
すべてを総合的に判断すること
いつまでも同じ場所にとどまらないこと

生きていく上での大切な知恵を学んだように思います。

 

本日も日々の備忘録のようなブログに

おつきあいいただき、ありがとうございます。