Flaneur-フラヌール-

50代からのSecond Life

ホッカイロの女の子

年の瀬も押し迫った函館駅の待ち合い室で

その日、私はガタガタ震えていました。

 

社会人2年目ぐらいの時のこと

かれこれ27、8年ぐらい前のことです。

東北六県を営業テリトリーにしていた会社で

私は青森や岩手を担当していました。

なぜか、1軒だけ函館のお客様があって

私が担当になってしまいました。

 

そのお客様は湯の川温泉の旅館でしたが

社長さんは地元の名主で

競走馬を持っていたり、地元でいろんな役をやっていて

地元の人からも、当然、旅館の人たちからも一目置かれるような人でした。

表情は固く、顔は笑っていなくて、ちょっとこわいタイプです。

 

そこの女将さんがよく連絡をくれました。

 

そして、その時も・・・

 

年の暮れ、あと半月もすれば今年も終わる

そう考え始めていた頃

「来年は改装を考えている

仕事納めの後なら、社長もいるから

函館に来て、話をしなさいよ」

女将さんからでした。

 

若い私はどう立ち回ったらいいのかわからず

年が明けてしまったら、いろいろ忙しいんだろうな、とか考えて

仕事納めの翌日に出発する約束をしました。

 

慌ただしく過ぎる中

参考になるような資料を集めて準備を進めていました。

ところが仕事納めは明日というところで

風邪を引いてしまったのです。

でも、あとちょっとだからと我慢していました。

そして、仕事納めとなり納会があって

納会は早々に切上げて寝たのですが

朝起きると熱はあるし、最悪のコンディションになっていました。

 

函館行きの電車は夜の11時頃出発

寝台の夜行で朝6時くらいに着きます。

出発までは寝て、電車でも寝ればなんとかなると思ったのですが

乗り過ごしてしまうのが怖くて、電車ではよく眠れませんでした。

だって乗り過ごしたら札幌まで行ってしまいます。

 

早朝の函館

体調が良ければ、駅に隣接する市場にでも行って

実家に海産物でも送るとか

海鮮丼の朝メシというところなのでしょうが

熱でボーっとしている私は

とにかく暖を取らなければと

駅の待ち合い室でじっとしていることにしました。

 

今は立派になっている函館駅ですが

当時は小さな駅舎で、確か木造だったのではないかと記憶しています。

改札を出ると、すぐ待ち合い室があり

そこに石油ストーブがあって

外と直結する開閉式のドアは

人が出入りする度、せっかくあったまった空気を

外の冷たい空気と入れ替えます。

外は粉雪が舞っていました。

 

私はできるだけ石油ストーブの近くに座りましたが

人が出入りする度、冷たい空気にさらされていました。

だんだん意識が朦朧としてきて

資料でいっぱいのカバンにもたれかかるようにして

身体を丸め目を閉じていました。

待合室が暖かくなると眠くなり

人が出入りすると目が覚め

眠りの境界線を彷徨い、どっちにも行けず苦しんでいました。

 

苦しくて、だんだん身体が横倒しになっていきました。

 

しばらくその状態のまま震えていると

「この人、かわいそう」

女の子の声がしました。

 

その声がする方に顔を向け

まぶたを開けようとしましたが

ぼんやりしか開けられませんでした。

小学生くらいの女の子がお母さんらしき人と

手をつないで私の前に立っているようです。

 

すると、その子は

「これ、使って」と

私の手に、ホッカイロを握らせてくれました。

 

「あっ、あったかい」

その時の私は、ホッカイロの温もりがありがたくて

たちまち深い眠りの中に落ちていきました。

 

しばらくして目を覚ますと

私は胸の前でホッカイロを握りしめていました。

女の子の姿はありませんでした。

「ありがとう、も言えなかったな」そう思いました。

 

短い時間でしたが深く眠れたおかげで

少し元気が出てきました。

外は雪がやんでいました。

近くであたたかい蕎麦をすすり、チンチン電車に乗り

旅館を目指し、無事、打ち合わせをすることができました。

 

帰りの電車の中は

ふるさとに帰る人でいっぱいで

なんとなく一年を無事終えられた安心感で溢れているようでした。

そんな中、ついさっき、ようやく仕事を終えた

スーツ姿の私は

左手に海を眺めながら

ホッカイロをくれた女の子のことを思い出していました。

 

見知らぬ街でも、こんなこともあるんだな

そう考えると、ホッカイロの温もりがよみがえってくるようです。

ガタゴトと揺れる心地よいリズムと暖かな車内の中

いつのまにか、深い眠りに包まれていました。

 

ホッカイロの女の子

もしかして雪の精だったのではないですか?

つらかったけど、北の国で人の暖かさに触れ

幸せな思いをしました。

本当に、ありがとう。

 

本日も日々の備忘録のようなブログに

おつきあいいただき、ありがとうございます。