Flaneur-フラヌール-

50代からのSecond Life

こころに灯りをともす

その人は建設会社の社長さんです。

年齢は50代。

自分のことは何も語りませんが

周りの人たちは『あの人はいい人だ』と言います。

地域の人たちからもとても慕われています。

この社長が毎年かかさずやっていることがあります。

それは社員の家庭訪問です。

社員に『いつならいい?』と事前に聞いて

菓子折りを持って家庭訪問に出掛けます。

そして、ご家族に

『お父さんがいつも頑張ってくれています。ありがとう。』

と伝えるそうです。

 

ある年の12月。

『あーっ、あの社員のところに、まだ行っていなかったな。』

一人だけ家庭訪問が終わっていないことを思い出しました。

その社員は父子家庭でした。

小学校1年生の娘さんと二人暮らしです。

その日は、ちょうどクリスマスイブの日でした。

『そうだ!突然行って、驚かせてやろう。』そう思い向かいました。

 

社員の家に着くと、灯りがついていません。

玄関の磨りガラスに

暗くなっている居間からのテレビの灯りが映っています。

恐る恐る、玄関のベルを押してみました。

少しすると、娘さんが玄関に現れました。

『お父さんの会社の者だけど、お父さんはいますか?』

そう尋ねると、娘さんは下を向いたまま、何も言わず

首を横に振りました。

 

『暗くして、どうしたの?お父さんはどこに行ったの?』

すると娘さんはボソッと『飲みに行った。』と答えました。

一人で毛布にくるまってテレビを見ていたようです。

 

『寒くないの?』と尋ねると

また首を横にふりながら

『火を点けたら危ないから』そうお父さんに言われているからと言います。

 

クリスマスイブの夜

父子家庭とはいえ

父親と娘が水入らずで食卓を囲み

笑顔で楽しく過ごしている

そんな自分のイメージとは真逆の光景がそこにはありました。

 

『ちょっと待ってて!』

社長はそう言うと、商店街の方に向かって走り出しました。

 

弁当屋さんで、温かいお弁当を買い

ケーキ屋さんで、クリスマスケーキを買いました。

そして、商店街のおもちゃ屋でお人形を買い、走って戻って来ました。

 

社長は、お弁当とケーキと、お人形を娘さんに渡しながら言いました。

『ごめんね。実は昨日、お父さんに頼まれていたんだ。ゴメンゴメン』

娘さんは、うつむきながら小さな声で

『ありがとう』と言いました。

『お礼はお父さんに言ってね。

お父さんいつもお仕事頑張ってくれているんだから。』

社長は、そう言って、家を後にしました。

 

『どうしたの?』

自宅に戻ると、いつもと違う様子に奥さんが尋ねました。

社長は、突然の家庭訪問の一部始終を伝えました。

普段、自分が見えていないことを見てしまったこと。

嘘をついてお弁当やケーキ、お人形を渡してしまったこと。

勝手なことをしてしまったと、奥さんに言いました。

奥さんは、『仕方ないんじゃないの』と社長を慰めたそうです。

 

社長は、朝6時、誰よりも早く出勤するのが日課でした。

クリスマスイブの翌日、その日も早く出勤しました。

すると、昨晩、家庭訪問をした社員がすでに出勤していました。

席に着くと、社員が近づいてきて気まずそうに頭を下げました。

そして、

『社長、昨夜はありがとうございました・・・

実は社長に聞いていただきたい話しがありまして・・・』

それから、その社員は1時間くらい、自分の身の上話しをすべて打ち明けたそうです。

 

その後、その社員はますます仕事に励むようになり

6年後、その会社の専務になっていました。

 

専務は後にこう言っています。

『あの時、もう、自分一人では

娘を満足に育ててあげることもできない

年が明けたら、施設に預けようと思っていました。

あのクリスマスイブの夜、社長が来てくれなかったら

思い留まることはなかったでしょう。

私たち親子はバラバラになっていました。

そして私は、それを救ってくれた社長のために働こうと思いました。

社長のおかげで今があるのです。』

 

娘さんはやがて成長するとこう言うそうです。

『お父さん、お父さんは会社の専務さんなんだから

コネで私を会社に入れてよ!

私は、お父さんの会社に入って、社長さんの秘書がやりたい!』と。

 

この社長が経営する会社には

『いずれはお父さんの会社に入りたい!』

そう言う子どもを持つ社員がいっぱいいるそうです。

 

このお話は、とあるセミナーで聞いた話しです。

「岐路に立つ」というテーマで

厳しい時代に生き残る企業経営、

いざという時の決断、判断について学びました。

実は前半にもうひとつエピソードがあります。

とてもいい話だったので、必死でメモをとりました。

ついていけなくて、ところどころ脱落してしまって

うまく伝えられなかったかも知れません。

 

身近な人のしあわせを追求するこの社長は

周りの人のこころに灯りをともす人ですね。

こんな人に、一度会ってみたいものです。

私たちは、人生の大半の時間を仕事をして過ごします。

できることなら

こんな会社で働けたらな、と思います。

 

本日も日々の備忘録のようなブログに

おつきあいいただき、ありがとうございます。